フロベニウス群3 指標の理論を用いない証明
指標の理論を用いない証明が発見されていないとされていたフロベニウスの定理( フロベニウス群1 - 数学SDGsブログ)ですがテレンス・タオが指標の理論を用いない証明をしているようなのでそれを見ていきたいと思いますー̀ωー́)
を有限群とする. ( は 上の関数の全体)に対し平均を で表す. に
で内積を定め内積空間とみなす. また, 対合と合成積を次で定めることで algebraとなる.
この対合は随伴と一致することに注意する.
, ()
に於ける"デルタ関数" を次で定める.
は の単位元であり, が成り立つ.
また の中心 は 上の類関数の全体である. 類関数 は を満たすときべき等であると言う. このとき 上の線形変換 もべき等である. は可換だから自己共役でもあり, への直交射影である.
のべき等全体に, 対応する部分空間の包含で順序を定める. これはべき等元のランクの大小が定める順序と等しく, であるとき として定まる順序とも等しい.
命題1
の全ての極小な射影は の線形変換としてランク である
<証明> をべき等元でありランクが より大きいものとする. すると は のスカラー倍でない元 を含む. 上の線形変換 を考えるとこれは可換性から正規である. は のスカラー倍ではないから は恒等変換のスカラー倍ではない. よって対角化可能性から固有空間 であって非自明な真の部分空間であるものが存在する. ここへの射影を として を取ればよい.
以下ランクは 上の変換として考えたものとする.
補題2
有限次元ベクトル空間上のべき等な線形変換のトレースは値域の次元に等しい. 特にトレースは自然数である.
<証明> をべき等とする. とその補空間から底をとり, 行列表示すればよい.
系3
を のべき等元, を の部分群とする. このとき
は自然数である.
<証明> に対し 上の作用素を
で定め, を上に定めたものとする. はどの二つも互いに可換だから
と置くとこれはべき等. 簡単な計算で のトレースが
に等しいことがわかり, 補題2から示される.
実際, とすれば であり, .
補題4
をフロベニウス核が , フロベニウス補群が であるような有限群とする. このとき任意のべき等元 に対し次の量は整数である.
(4)
<証明> のとき値は . よって がランク の射影であることに注意すると分解 することで は平均が であるとしてよい. の部分群 に対して系3を用いることで次の量は自然数であることが判る.
(5)
(6)
(7)
(8)
(6)は次のように書ける
は類関数だから は の共役に関して不変である.
実際, を としたとき, 和の での値と元の和の での値は等しい.
これと
(1)
という表示から(6)は
と書ける. これを(5)から引くことで
は整数であることがわかる. これと(4)を比較すると次の値が整数であることを示せば十分である.
(9)
(8)に を掛けて の項を分けることで次のように表される.
(7)の 倍をこれから引いて
は整数. の の共役に関する不変性と(1)の表示から
一方, は平均 だから任意の に対して
同様に任意の に対して
よって前の式はさらに
となるが, (1)から は共役で閉じているので(9)は整数である.
しかし次の補題で(4)の別の表示を得る
補題5
をフロベニウス核が , フロベニウス補群が であるような有限群とする. このとき任意のべき等元 に対し(4)の量は に等しい, ここで は台が に含まれる平均 の類関数全体の空間 への直交射影である. 特に, は の部分空間だから量(4)は と の間である.
<証明> は次のように表される.
(10)
これを計算すると
\begin{align}\frac{1}{|G|}\sum_{g\in K}(P_{\phi}(\mathbf{E}_{x\in G}\delta_{xgx^{
-1}}-\frac{|G|}{|K|}1_K), \mathbf{E}_{y\in G}\delta_{ygy^{
-1}}-\frac{|G|}{|K|}1_K)\end{align}(11)
さらに計算すると
\begin{align} \frac{1}{|G|}\sum_{g\in K}(P_{\phi}\mathbf{E}_{x\in G}\delta_{xgx^{
-1}}, \mathbf{E}_{y\in G}\delta_{ygy^{
-1}})-\frac{|K|}{|G|}(P_{\phi}\frac{|G|}{|K|}1_K, \frac{|G|}{|K|}1_K) \end{align}(12)
の共役での不変性からこれは(4)に等しい.
<定理(フロベニウス群1 定理 - 数学SDGsブログ)の証明>
をフロベニウス補群 , フロベニウス核 の有限群とし, を極小なべき等元とする. 補題2, 4, 5から(4)の量は か の整数である. 補題5の は を含むか, これと直交する. (含まない場合, トレースがノルムを定めることに注意し, 積が なら直交することを用いる. )極小なべき等元の上で和を取ることにより は ( はべき等元)の形の空間の直和である. よって に於ける の直交補空間 についても同様である. 特に は合成積で閉じる. これより は 上で定数である. しかしこの関数は最大値 を 上で取る. よって となり は部分群. 共役で閉じているので示された.
あ...ありのまま今起こったことを話すぜ.
本当に証明できてしまいました. 既約指標の正規直交性やフロベニウスの相互律の部分がスキップされています!
これにてフロベニウス群についてはおしまいです.
参考
A Fourier-analytic proof of Frobenius’ theorem
最後に補題5の計算...
(10)から(11)の変形で の添え字を に制限してよいことは を に台が含まれる関数とすると と表すことで判る. よって として良い. このとき であることは この値が の元であることと の直交性により判る. (直交性はKへの作用に関して起動・固定群定理を用いると判る.)
(12)から(4)へは第一項は から, 第二項は から判る.
フロベニウス群2 証明
証明に使う概念の定義をしていきます
表現と既約表現
群 から(ここでは )線形空間 上の一般線形群 への群準同型写像 があるとき組 を群 の表現という
また, の部分空間 が , ()を満たす時 は不変部分空間であるといい, 以外に不変部分空間が存在しない時, 表現は既約であるという
指標と既約指標
を有限群 の有限次元表現( が有限次元である表現)とする.次で定まる 上の関数 を表現 の指標という
- , ()
また, 既約表現の指標を既約指標という
類関数
群 上の 値関数 は次を満たすとき類関数という
- , ()
指標はトレースの巡回性から類関数です
類関数の空間
上の類関数全体のなす空間を で表し, この空間の内積を次で定める
- , ()
証明に用いる次の事実を認めることにします, 気になる方は参考の本を見て頂くとよいでしょう
定理1
既約指標の全体は の正規直交基底を成す
次の定理は各元の位数が有限であること(と従って最小多項式が重解を持たず が対角化可能であること)からわかります
定理2
を の表現, をその指標とする. であり, と は同値である
誘導関数
群 の部分群 上の類関数 に対し, 次で定義される 上の類関数を の における誘導関数と呼ぶ
- , (ただし , ())
一見天下り的な拡張(?)です
フロベニウス群に対し次が成り立ちます
補題
フロベニウスの相互律
に対して次が成立する
- , (は への制限)
フロベニウス群1 定理
群論の本を眺めていて気になった話のメモ
フロベニウス群
次の同値な2条件のいずれかを満たすものをフロベニウス群と言う
には次の条件を満たす真の部分群 が存在する
- ならば
はある集合 に推移的に作用し, の固定部分群( を動かさない元全体がなす の部分群)を で表すと次を満たす
- ならば
同値性を証明します
- としては一点 を取り とすればよい
実際, とし とすれば であり は仮定からに等しい
- への作用を考えればよい
実際, の固定部分群は で とすれば なので
フロベニウス核
次の集合をフロベニウス核と言う
これらについて次の事実が成り立ちます
定理
フロベニウス核 は の正規部分群をなし, であり と表される
このようなとき, を の補群と言います.
が共に正規部分群であれば直積ですが片方なので(内部)半直積と言われるものになっています.
次回と次々回で2通り証明をする予定ですが当時指標の理論を使わない証明が見出されていなかったらしく実に興味深いです
とすると 軌道・固定群定理と推移的の仮定から ラグランジュの定理から だから である
から の共役全体は 元から成る
(どの点を固定するかで共役類の個数は 個)
よって の元の個数はちょうど
明らかに だから異なる組 は異なる元を定め
よって示すべきことは正規部分群であることのみ
ここで から群 は に不動点を持たないから各軌道は 点から成る
よって の形で は互いに素な位数を持つ
このような部分群をHall部分群という
Hall部分群
Hall部分群とは位数と指数が互いに素なものをいう
p-シロー部分群を一般化したものになっています
参考
楽天ブックス: 群とその表現 - 服部昭 - 9784320011090 : 本 (rakuten.co.jp)